077049 ランダム
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Lee-Byung-hun addicted

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ball machines <6>

ball machines 6



次の日の朝。

二人はサンタモニカの海岸を散歩していた。

まだ早い時間のせいか、
季節はずれのせいか、
サンタモニカピアの人通りはほとんどない。

地元に住むランニングを楽しむ人。

早くから海遊びに来た若者。

桟橋の清掃係。

みやげ物やに荷物を運ぶ出入りの業者。

ベンチに寝込むホームレス。

そしてカモメ。



彼らに関心を示すものは誰もいない。

波の音が静かに響き渡る中、二人は手を繋ぎただ歩いていた。

「気持ちいいね・・・・」

ビョンホンは目を細めて海の遠いかなたを見つめている。

「うん・・」

揺も同じ海を見つめた。

「ねえ・・揺」

「ん?」

「・・・・・・お腹すかない?」

とビョンホン。

「もう・・・ムードも何にもないんだから」

揺は呆れたようにそういうとゲラゲラと笑った。





「揺・・・とりかえっこしよう」

桟橋のすぐ傍にあったカフェで買い物をした二人は、
海辺の公園のベンチに座ってサンドイッチをほおばっている。

「え~。イヤだ。ビョンホンssiにあげると一口大きいんだもん。」

「いいじゃん。ほら、こっちやるからさ・・」

二人はお互いの口にバケットサンドを押し込んだ。

「☆×$#・・・・」

「何?」ビョンホンが笑いながら問いかけた。

「苦しいの?」

彼は黙って頷く揺に慌てて飲み物を飲ませて背中をさする。

「全く・・子供みたいだな」

呆れたように言う彼に向かって

「普通、あんなに押し込まれたらむせるわよ。もう・・死ぬかと思った」

揺は恨みがましくそう答えた。

「死んだら困るから、わしが食ってやろう」

いつの間にか同じベンチにホームレスの老人が腰掛けていた。

彼はすでにビョンホンがベンチの傍らに置いたバケッドサンドをくわえている。

ここ、サンタモニカはホームレスに優しい街として近年有名になり、LA近郊から移り住む者も少なくない。

道を歩くと至るところに彼らが座っている。

「ハーイ」

「ハーイ」

二人は、引きつりながら隣に座る彼と挨拶を交わした。

「この店よりもうちょっと先に行ったオーガニックマーケットのデリの方が旨いんだが・・
今日はこれで我慢するか・・」

老人は仕方なさそうにつぶやいた。

「いい若いもんがこんなところで遊んでいていいのか・・」

そういう老人はビョンホンのコーヒーをすすっている。

「あ・・・今日は休みで・・」

ビョンホンはあっけに取られながら答えた。

「こんな平日に休みなんて・・真っ当な仕事とも思えんな・・
ま、わしの若い頃も自慢できたもんでもないが・・・」

老人はつぶやいた。

言葉とは裏腹に彼の表情には自慢げな様子が浮かんでいた。

「何・・・なさってたんですか?」

そんな様子を察して揺は老人にそう声をかけた。

「お嬢さん・・聞きたいか・・・わしは昔映画に出とったんじゃ・・」

老人は嬉しそうに語り始めた。





老人の話が進むにつれ二人は夢中になっていった。

何でもこの老人はベトナム戦争で怪我をする前まで映画俳優だったらしい。

どこまで本当かはわからないが、彼の話す黄金期のハリウッドはとても魅力的だった。

チャップリンと友達で、スピルバーグはヒヨッコ呼ばわり。

「チャールトン・ヘストンとは『十戒』の時に仲良くなってな・・
『ベンハー』にも是非一緒にって誘ってくれたんじゃ・・・
全く俺を置いて先に行きおってからに・・」

老人は寂しげにつぶやいた。

つい先日チャールトンヘストンの訃報をこの地で聞いたばかりのビョンホンと揺は言葉を失った。

「あいつは男のわしから見てもなかなかかっこよかった・・・」

老人はチャールトンヘストンとの思い出を嬉しそうに語った。

「ま、こんな昔話したって、あんたらの年じゃ、そんな映画みたことないから・・わからんよな・・」

自嘲的につぶやく老人にビョンホンは目を輝かせて答えた。

「僕の父が『ベンハー』が大好きで僕も何度も見ています。
あの戦車のシーン凄いですよね。他にもいっぱい好きなシーンあります。」

「おお・・そうかそうか。あのシーン覚えてるか・・・・」

楽しそうに話し込む二人を揺はニコニコと微笑んで見つめていた。

サンタモニカの太陽は段々と高いところに昇り、日差しが燦燦と降り注いでいた。


           


「あ~面白かった。こんなところで『ベンハー』の話が聞けるとは思わなかった。」

ビョンホンは嬉しそうに言った。

二人は老人と別れ、サンタモニカの目抜き通り、サードストリートプロムナードを歩いていた。

「本当ね。LAってやっぱりどこに行っても映画の匂いがするね。
みんな誇りを持ってる気がするわ」

「うん。俺も揺もそんな誇りを持てる仕事についてるんだと思うと、何だか気分いいな」

「うん。先輩たちに恥じないようにいい仕事しよう」

「おお。もちろん」

二人はそう言い合うとしっかりと手を繋いで歩いた。


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